日本銀行が世界でも異例の「マイナス金利」政策の導入を決めて1年。その後の金利の急低下は、住宅ローンの借り換えなどでメリットをもたらしたが、消費や投資を大きく増やす効果は出ていない。金利低下による年金運用の悪化などの副作用も目立ち、政策への批判は今も根強い。
■住宅ローンにも陰り
31日午前、新生銀行の窓口を訪れた公務員の男性(39)は、8年ほど前に他の大手行で組んだ自宅の住宅ローンを借り換えた。借入金利は1%ほど下がり、計約200万円の負担が軽くなるという。「金利が上がりそうなので、できるだけ早く申し込みたかった」
日銀は昨年1月にマイナス金利政策の導入を決定。長期金利は1月の0・2%台から、2月にはマイナス圏となり、7月には一時、マイナス0・3%まで急降下。連動する住宅ローン金利も下がり、8月には過去最低水準となった。
住宅ローンの申し込みは急増した。大手6行(三菱東京UFJ、三井住友、みずほ、三井住友信託、りそな、新生)の申込件数は、2016年の1年間で計約56万件となり、前年より3割増。中でも借り換え需要は旺盛で、前年の2・5倍になった。新規借り入れの15%増とは大きな差がある。新生銀行の担当部長は「借り換えの需要は落ち着いてきたが、最近は金利がやや上がっており、その前に借りようとする人もいるようだ」という。
一方で、マイナス金利の「マイナス効果」も目立ってきている。長期金利の低下は、国債の利回り低下を意味する。安定資産として大量のお金を国債で運用する年金基金には、利回り低下のデメリットが直撃する。個人年金の商品の運用も悪化し、販売を中止する保険会社が相次いだ。
ある大手企業の年金基金の幹部は昨春、年金運用の事務を担う信託銀行から、新たな手数料を徴収すると通告された。信託銀行は証券などの管理事務を行うが、運用資金の一部を現金で預かっている。しかしマイナス金利政策で、この現金にマイナス金利がかかりかねなくなった。そのため、年金基金に負担を求めた形だ。年金基金幹部は、「ただでさえ利回りが下がり、手数料までとられる。マイナス金利政策に良いことはない」と嘆く。
昨年11月の米大統領選でのトランプ氏勝利後、長期金利は上昇傾向で、急速に伸びていた住宅ローンにも陰りが出ている。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は31日の記者会見で、昨年9月に長期金利操作の新政策を導入したことも踏まえて「マイナス金利導入後の政策運営は、必要かつ適切な政策だ」と強調した。しかし、金利低下が消費や投資を促し、賃金が上がり、物価も上がる、という循環はまだ見えてこない。
(土居新平、真海喬生)
■不安をあおった
東短リサーチ・加藤出氏の話 マイナス金利政策はうまく機能しなかった。日本では高齢化が進み、金利低下を喜ぶ人より、老後の暮らしの心配をする人のほうが多かった。将来不安を抱える社会では、やみくもに金利を下げることがプラスとは限らないことがはっきりした1年だった。
年金運用の悪化など、国民生活に与える影響が大きい政策だが、決定時に丁寧に議論した形跡が見られなかったのも疑問が残る。
異例のマイナス金利はもうやめたほうがいいのではないか。急激な金利上昇などの不安を市場に与えないように、タイミングを選ぶ必要があるが、少しずつ金利は正常化していくのが望ましい。
■消費低迷の一因
BNPパリバ証券・河野龍太郎氏の話 マイナス金利で金利全体が下がり、借り入れコストが安くなり、投資が活発になる効果がなかったわけではない。ただ、大きく伸びたのは不動産で、節税目的のアパート建設を助長し、胸を張れる結果ではない。一方で副作用は大きかった。日本経済はそんなに悪いのか、と消費者心理を悪化させ、消費低迷の一因になった。金融機関や年金の収益悪化が懸念され、一時は株安・円高が進むなど金融市場も動揺した。
金融緩和はやればやるほど効果が強まる、という考えは間違いだということがはっきりした。本来は成長戦略に邁進(まいしん)しないといけないが、再び財政の力を借りようという声が一部で盛り上がっているのは心配だ。
(聞き手=藤田知也)
マイナス金利、乏しい成果 導入決定1年 年金運用が悪化:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/DA3S12775038.html
日本銀行が世界でも異例の「マイナス金利」政策の導入を決めて1年。その後の金利の急低下は、住宅ローンの借り換えなどでメリットをもたらしたが、消費や投資を大きく増やす効果は出ていない。金利低下による年金…
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